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【オフィスミギ】晴れ男なものですから

コハちゃん

暑いです。
たまらんです。

木村学さん、ホントにありがとうございました!
記事を読んで頂いた方々、コメントを寄せて下さった皆様
ありがとうございます。
今、本をなんとかまとめる作業中。
頑張らなくては。
ボクサーたちとかかわって10数年。
いろんな想いがあります。
ちょっと思いついたまま書こうかなと。
〝またかいな〟と思うでしょうが、
まぁ、まぁ、これしかないんで。僕。


古波蔵保知。
コハグラヤストモって読みます。
僕はコハちゃんと呼んでます。
最近もちょっと電話で話しました。
相変わらず、控えめに詰まりながら喋る声を聞いて
まったく変わらん男だなぁ、と思いました。
コハちゃんを初めて撮ったのは、1998年の新人王の予選、後楽園ホール。
まだボクサーを撮り始めて1年過をぎた頃。
このときは、まだお互い顔見知り程度。
ジムで見かける彼は、地味でまったく目立たない存在だった。
正直ボクサーとしての才能があるとは思えなかった。
寡黙すぎるくらい寡黙で、不器用さを丸出しにしたまま生きてるような、
そんな感じがした。
この日、僕は同じジムの他の選手を撮るために後楽園ホールに向かっていた。
ホールのエレベーターでたまたま彼と一緒になって、初めて彼の試合があること
を知ったのだ。

彼はリングに上がる前、決意した、鋭い顔をしていた。
僕はグイっとそれに吸い寄せられて、1枚だけ撮った。
試合は観たかったけど僕は他の選手に張り付いて撮っていたので、
出番を待つ選手たちがいる控え室に急いで戻った。
勝ってくれるといいな、と思いながら。
控え室に戻ってすぐに、リングから何度も大きな歓声やどよめきが聞こえてくる。
どうやら、凄いファイトになってるようだ。
4ラウンド目だっただろうか、KOを告げるゴングが打ち鳴らされた。
勝ったのだろうか。それとも。
しばらくして、控え室のドアがバンっと開いた。
トレーナーたちに両腕を抱えられて、なだれ込むように彼が入ってきた。
顔面は恐ろしいくらいに晴れ上がっている。
顔もそうだが、トランクスは血と汗で滲んでいる。
トレーナーたちは彼をイスに座らせ、慌ただしくグラブやシューズの紐をほどいたり
晴れ上がった顔を氷で冷やしたりしていた。
「大丈夫か?気分悪くないか?目、見えてるか?」
かなり打たれたらしい。
控え室が緊迫した。
出番を待つ他の選手たちは、自分は絶対こうはならない、
勝者として戻ってくるんだと、今、目の前の、この事態を否定するように
シャドーしたり、目を瞑り集中したりしている。
彼はまだ興奮していて肩で息をしていた。
負けたことに、これっぽちも納得していない様子だった。
顔は観るに耐えないくらいに晴れ上がってるけど、
全身からまだ闘うオーラが出ている。
まだ闘えるのに、どうして止めるの?  そう言いたげだった。
ボコボコに腫れた顔から吹き出してくる汗と一緒に涙が滲んでいた。

相手は優勝候補の林田龍生という選手。
(このトーナメントを制し、全日本新人王となり、東洋チャンピオンまで上り詰め世界を期待されたボクサー。彼も撮らせていただくことになるんだけど、それはもう少し後のこと)
ほとんどの試合をKOで勝ってきてる。
おそらくコハちゃんには勝ち目はないと、みんなそう思っていたらしい。
普通にみてもそうだったろう。
「コハグ、あたって砕けるしかないよ。」 試合前からそういわれてた。
「相手が誰だろうと、砕けるわけにはいかない。絶対に目にものいわしてやる。」
そう決意して臨んだリング。
試合は1Rから林田君か打ちまくり、それを受ける展開。想いを込めたパンチを振り回すも空を切るばかり。いくらパンチをもらってもコハちゃんは頑として倒れない。それどころか、晴れ上がった顔で、さらに鬼気迫る形相で向かっていく。ずっとそんな展開だったらしい。
後に林田君が言っていた。「いつもの相手ならとっくに倒れてるのに、倒れない。なんでだって?不気味だった。」
あまりの凄惨さにレフリーが試合を止めた。TKO。
しかし、コハちゃんはレフリーに抱きついて食い下がる。
なんで?どうして?まだやれる、お願いだからやらしてくれ、と、あの顔で震えながら必死で訴えたらしい。
最後はトレーナーたちに引っ張られてリングを降りた。
コハちゃんのボクシングは、その不器用さ丸出しの生き方そのものだった。
この時撮った、たった1枚の写真を現像してコハちゃんに渡した。
最後まで撮らしてもらおう。僕はそう決めた。
コハちゃん_b0119854_19423862.jpg

KO負けすると、健康面の問題で3ヶ月は試合はできない。連敗でもしたら
さらに厳しくなるし、試合を組む相手もなかなか難しくなる。
コハちゃんは連敗が続いて、なかなか試合が出来ないでいた。
1年以上も試合ができない時もあったと思う。

そんな頃にコハちゃんとメシ食べたり、家におじゃましたりして
いろんな話を聞いかせてもらった。
小さい頃、テレビでみたボクシングに憧れていたこと。
生き別れた父親から貰ったおもちゃのボクシンググローブが
宝物だといって見せてくれたこと。
コハちゃん_b0119854_19435765.jpg

卒業文集に世界チャンピオンになるのが夢だと書くのがはずかしくて
ボクシングの選手になるとだけ書いてしまったこと。
上京して間もない頃、バイト先の女の子に一目惚れして、
必死で口説いて彼女にしたこと。
なかなか勝てず、試合も出来ず、どうすればいいのか
悩んでいること、など。

僕はコハちゃんに試合が決まったら必ず連絡してくれと会うたびに言っていた。
もちろん、ジムに行ったときは、トレーナーからも聞いたりした。
「どうっすかね、コハちゃん決まらないっすか?」
「いや〜いろいろと声はかけてるんだけどね、きびしいよ。」
この頃になると、僕もかなりの人数のボクサー達を追いかけていたので
コハちゃんのいるジムに行くにも、かなりキツかった。
いずれにしても、次の試合は彼にとって進退のかかる試合に
なることは間違いないだろう。絶対に外せない。
そう、思いながら、僕自身、日々に余裕をなくしていった。

そんなある日、コハちゃんから連絡がきた。
決まったんだ!
そう思って、電話に出た。
「試合はいつ!相手は?」
ちょっと興奮ぎみだったと思う。
でも帰ってきた返事は予想していないものだった。
「昨日、試合しました。」
「え!?」
「負けちゃいました。   引退します。」
「ちょっと待ってよ、連絡してくれってあれほどいってたのに。どうして。」
目の前が真っ暗になった。
「いままでずっと撮ってもらてて、すごく嬉しかったけど、俺みたいなの撮ってもらうのは価値がないような気がして。なんだか本当に申し訳なくて。さんざん迷ったけど、連絡しないと決めたんです。」
ちがう、そうじゃないのに。
世間では、まったく興味のない、単なる前座の4回戦なんだろう。
でも僕にとっては価値のある、とても大事な試合だった。
そういえば、コハちゃんの試合の日程は、いつも僕が嗅ぎつけて行っていた。
彼が自分から言い出すタイプではないのはわかっていたはずなのに。
なんで、気がつかなかったのだろう。
忙しさを理由に自分の醜態が、どうしても許せなかった。
もう、どうあっても、最後の試合には戻れないのだ。
正直、あまりの情けなさに泣けてきた。
「いままで、本当にありがとうございました。どうしてもそれだけは伝えたくて。」
「すまない。申し訳ない、行けなくて。最後、どうだったかを聞かせてくれ。」

コハちゃんの最後も、きっと彼らしく、
不器用さ丸出しの、切なくなるようなボクシングだったんだと思う。
もうボクシングからちゃんと決別するためだけに、リングに上がったと言っていた。
でも、僅かな可能性に賭けて懸命に向かって行ったんだろう。
叫ぶように、拳を振り回してるコハちゃんの姿が目に浮かんだ。
いくら振り回しても、その想いは届かなかった。

でも僕はたった1度だけ、古波蔵保知が、夢を叶えた瞬間に立ち会うことができた。
夢は、もはや世界チャンピオンではない。
それは、ただひたすら待ち望んで、やっと手に入れた大切な試合に、
なにがなんでも勝つこと。
後楽園ホール。
彼はこの場所で、ある時、ある瞬間に、強烈に輝いた時を持つことができた。
ずっと、ずっと溜め込んできた、そのありったけの想いをついに爆発させた。
あまりに興奮して舞上がっちゃって、ピントがまるで合っちゃいなかったけど
僕はやっとそれを撮ることができた。
純粋に嬉しかった。解き放たれた瞬間に酔いしれた。
とにかく最高の夜だった。
コハちゃん_b0119854_19473255.jpg

最後に。
彼の試合には毎回お姉さんが地方から応援に来てました。
ホールの後ろの方の席で控えめに。
小さな子供たちと一緒に。

そのお姉さんがコハちゃんに送った手紙。
勝てなくて、苦しかった頃の唯一のバイブル。
もうひとつの宝物。


保知へ

7年前、着替えのはいったカバンだけを持って

「東京に行く」と言った君を駅まで送りました。

君の事をよく知らない人たちは、

ボクサーを目指していた若い君に、

説教じみたことを言ってたよね。

「現実を見てちゃんと働け」

「なれるわけがねぇ」

そう言われてたプロボクサーに君はなりました。

ここまでボクシングを続けるのにたくさんの葛藤があったと思います。

だから私は君に強くなってほしいと思います。

これから先も思い通りに生きて行ってほしいから。

がんばってください。

私は無条件で君の味方です。

                 おねえより


古波蔵保知  
2006年3月   およそ10年に及ぶボクサー生活を引退。
戦績11戦3勝8敗  勝った試合は全てKO勝ちだった。

kenji

# by officemigi | 2008-08-02 19:55 | 林建次の日々 | Comments(6)

明日への応援歌

明日への応援歌_b0119854_0472195.jpg前の記事の続きです。

こんばんは。shioriです。

夜中の帰り道、コンビニで読売新聞夕刊を手にしました。
そこには、あたたかく優しい目をした木村さんが書いてくださったコラムが、すぐに目に付きました。

前々回の日記「俺の話をきいてくれ」のあたしの失態、あらためて反省するしだいであります。

一期一会という言葉がありますが、本当に人とのつながりや出会いは大切にしたいもの。
それは、実際にお会いしなくても、記事を通しての出会いだったりすることもあるのだなぁとつくづくと感じました。

ここで紹介してくださった中学生が読む本のタイトルは「きみがいちばんひかるとき」です。

すてきなタイトルで、とても気に入っています。この本に関われたことはとても光栄です。

きみがいちばんひかるとき、それはつねに今、こうして向き合っているときだと感じています。

林カメラマンにとっても、shioriにとっても、migiスタッフにとっても、そして、あなたにとっても。

そんなうれしい思いがどんどん広がっていくといいなぁ。

広げるきっかけを作ってくださった記者の木村さん、ほんとうにありがとうございました!

# by officemigi | 2008-07-31 01:09 | Comments(4)

本日の読売新聞夕刊

お知らせです。

本日の読売新聞の夕刊に僕の記事が出ます。

テレビ欄をめくった右側のページ。

18面の下の欄「記者ときどき私」というコラムです。

去年の3月11日の人物語で書いて頂いた読売新聞記者の木村学さんが

再び書いて下さいました。

内容は、、、、是非、新聞をみてください!!!!

取急ぎ報告です!  林建次

# by officemigi | 2008-07-30 14:16 | お知らせ | Comments(2)