【オフィスミギ】晴れ男なものですから

小話2

 某フィルムメーカー勤務のSさんと会って、
ああしたい、こうしたい的なことを話してたんだけど、
よくよく聞いてたら、12月で定年退職されるとのこと。
ずっと同じ会社で働いてきて、全うされる、と。


「なんか、ホッとするんですかね、どうなんでしょう」
「いや、寂しいよ。あと10年はいたかったけどねぇ」

Sさんと会ったのは、数年前のあるイベントがきっかけだった。
穏やかで、物腰柔らかく、ちょっとしたオヤジギャクを
かますひょうきんさも持っていて、誰にでも親しめる方だった。


お店出て、二人で下北の南口まで歩いて行く中で、
辞めてからのこととか、これからのささやかなことを話してた。
寒いなと思いつつ、うんうんと聞きなが人混みの中歩いていると、
Sさんが立ち止まって、何かを指差してる。

それは手袋なんだけど、俺も含めて、みんな素通りで気づきもしない。
気づいても、あぁ、落ちてる、ぐらいにしか思わんと。

Sさんは、それを大事そうに拾い、
持ち主の気持ちをあれこれ考えては、ぶつくさ言っている。

「これ、まだ落としたばっかりだよなぁ」

そういって辺りを見回すと、腰の高さほどのわかりやすそうな場所にかけてあげた。
ここに、ありますよ、みたいな感じで。

けど、まぁ、わかんないだろいうなぁ、と俺は思いつつ
話を再開して駅に向かって歩いていると、Sさんがある青年に話しかけた。

「手袋ですよね、それは、ちょっと歩いて行くと、あそこにかけてありますよ」

とか言ってる。
どうやらSさんは、歩いて行く道すがら、その青年が手袋を探しているらしいと
察知したようだった。

無事に持ち主の手に戻ったことを確認して、
よかったね、といって駅へ向かった。

この人通りの多い中で、道端に落ちている手袋を見つけ、
それを拾い、さらには、落としたであろう人に声をかけ、
教えてあげる。ごく、自然に。

Sさんは派手なことはないけれど、40年近く勤務した会社での存在は、
おそらくこのようなものではないのだろうかと思った。

別れ際に明日から大阪へ行く自分に、いたずらっぽく笑ってこう言った。

「お土産は、いらないからね」
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by officemigi | 2016-11-29 01:14 | 小話 | Comments(0)
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