鈴は10代の頃、沖縄、山原の村々をひとりで巡っていた時にある老婆に出会う。
かなり破天荒な人らしく、皆「ヤチ婆」と呼んでいた。
彼女はやんちゃな悪ガキたちを引き連れている。鈴とヤチ婆は当然のように仲良くなった。
出会って3日目、鈴は浜辺でヤチ婆の話を聞いていた。
彼女が、かの戦争で恋人を失っていたことを初めて知った。
「愛する人の話をする時、老婆の瞳が少女のように美しく輝いていた」
そう言って鈴は歌い出す。
この曲の詩は、「戦争、死、悲しみ、苦しみ、」といった直接的な言葉は一切出て来ない。
青空の下、海の向こうから穏やかな風に乗って聞こえて来る言葉に耳を傾ける。
それは彼女にしか聞こえないあの人の声。
一緒に生きていくとこは叶わなかったけど、今もあの頃のように想っている。
「南風815」鈴は20年経って彼女の想いを曲にした。
というよりも、鈴自身およそ20年の歳月を生きたからこそ出来たのだろう。
もうすでにヤチ婆は愛する人のもとへ旅立ったのだという。