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【オフィスミギ】晴れ男なものですから

フィールド・アゲイン


佐伯 勇造 SAEKI Yuzo SB/DB 日大鶴ヶ丘

 2012年11月11日。優勝を争う大事な試合で、
佐伯勇造はスターターとしてフィールドに立った。
不思議と気持ちは落ち着いていた。

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相手は1部常連の東海大で、彼らもこの試合に入
れ替え戦進出を賭けていた。2部に落ちてきたと
はいえ、東海大はもっとも強い相手と目されてい
た。佐伯は緊張で、前日はなかなか寝付くことが
出来なかった。入れ替え戦までいくには、この強
敵に勝たなければならない。リーグ戦最大の山場
で、佐伯は闘う気持ちを最高の状態にしたかった。
怒りを力に変えて相手にぶつけてやれと思った。
自分たちが遊びもせずに毎日あんなに苦しいトレ
ーニングしなきゃならなかったのは、みんなあい
つらのせいなんだ、と言い聞かせていた。

「覚悟しとけよ。叩き潰してやる。」

 試合は駒澤大学の玉川グラウンドで始まった。
開始早々、いきなり東海大に先制される。しか
し、佐伯には焦りはなかった。

「取り返してやる。」

 チームはリーグ戦を戦うごとに、成長してい
た。負ける気がしない。力をつけたチームは一
体となって、すぐにタッチダウンを奪った。
その後、勢いを止めることなく試合を進め、
東海大に完勝した。2部優勝と、入れ替え戦進
出を決めたチームは喜びに沸いた。
佐伯は嬉しかった。今までやって来たことが、
ここで報われた。試合後、佐伯は「4年生みんな
で食事に行こう」と提案した。久々に同期で楽し
い時間を過ごした。このメンバーで過ごすのも、
あと2試合となっていた。佐伯は入れ替え戦に勝
って、再びみんなで勝利を分かち合いたかった。

それは、ここに集まった同期9人の最後の夢で
もあった。


 佐伯は高校でアメフトを始めた。クラスの友人
に誘われて、体験入部してみた。ルールはよく分
からないが、面白そうだったので始めてみること
にした。だが、練習は辛いし、やっていることが
理解出来ずに全く楽しいとは思えなかった。だが、
夏の練習試合で、今まで練習してきたことの意味
や成果を感じて、ようやくアメフトの面白さを知
った。そして、高校の3年生となった春に、佐伯
はケガをしてしまう。右膝の靭帯を痛めてしまっ
た。夏になってようやく回復したと思った矢先、
再び同じ右膝の全十字靭帯を切ってしまった。重
症で手術の必要があったが、佐伯はテーピングや
装具などで固定して、高校最後のトーナメントに
賭けようとしていた。しかし、一回戦敗退という
結果が待っていた。このままでは終われないと思
っていた佐伯は、大学へ行って続けようと決めて
いた。卒業と同時に手術を受けて、駒澤大学に入
学した。

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 アメフト部に入部した佐伯は、すぐに練習には
参加出来ず、サイドラインに立って黙々と手術後
のリハビリメニューをこなす日々だった。正直な
ところ、うまくチームに馴染めるか不安もあった。
だが、この時のチームは、勢いがあり、2部リー
グ優勝、そして、入れ替え戦にも勝利して最高の
年を過ごしていた。2年生の時は、惜しい試合は
あったものの、1部リーグの実力に圧倒され1勝
も出来ずに終わった。佐伯はようやく試合に出場
していたが、悔しい思いだけが残った。やがて、
多くの同期がチームを辞めていくという、やり切
れないことも経験した。同期のみんなで乗り越え
て行くしかなかった。3年生となった佐伯は、な
んとしても1部リーグへ上がりたいという思いを
強く持った。高校の同期が、日大のアメフト部で
活躍している。日大は1部リーグという舞台で闘
っていた。佐伯はチームを1部に上げて、来年に
彼らと思い切り勝負したいという夢を描いていた。
しかし、結果は4勝3敗で、それが叶うことはな
かった。やり切れなかった。もっとフィジカルを
鍛えておけばよかった。戦術の理解を深めておけ
ばよかった。佐伯は、この結果を前にして、自分
の甘さを認識して後悔した。

 最上級生となった佐伯は、副将となった。主将
となった伊藤淳太に対して、どうサポートするか
を4年で話し合ったこともあった。佐伯は自分た
ちの代が頼りないとは言われたくなかった。自分
たち4年生はもう1部でプレーすることは出来な
いが、後輩たちのためにも2部リーグを制して、
チームを1部リーグに上げることが目標となった。
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 いよいよリーグ戦が開幕した。厳しい練習をこ
なしてきたチームは、初戦の農大戦を勝利した。
佐伯はスターターとしてフィールドに立った。し
かし、彼ははこの試合で右足の肉離れをおこして
しまう。自信もあったし、調子がよかっただけに、
残念だった。以後、復活するまで、サイドライン
で地道に、リハビリに励んでいた。医者にすぐ治
ると言われて辛抱したが、復帰して練習を開始し
た直後にまたやってしまった。ケガで思うように
挑むことが出来なかった高校の時代が、彼の脳裏
をよぎった。試合ごとにチームはまとまりつつあ
って、勝利を重ねていたが、自分が置いていかれ
るように感じられた。焦れば焦るほど気持ちが空
回りして、どうすることも出来なかった。スター
ターを外されて、ポジションを島瀬信利に奪われ
る形になった。佐伯はオフェンスなら島瀬と、ディ
フェンスなら斎藤大樹とポジションを争わなけれ
ばならなかった。チームの中では、オフェンスと
ディフェンスの穴を埋めるような形で試合に出場
していたが、自分の立ち位置が分からなかった。
自信を失ってしまい、とても苦しい状況に陥って
いた。佐伯はその胸の内を、千尋海渡に聞いても
らった。
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「千尋がいて、よかったと思う。本当に救われた。
あいつは、頼れるものを内に秘めていた。」

 佐伯が最後の試合となる入れ替え戦にスターター
としてフィールドに立つことは、難しい状況だった。
それを十分理解した上で、彼は上智戦の前日に、幹
部と4年生を集めて、副将としての想いを伝えた。

「必ず勝って、1部リーグへ行こう。」

 そこには、自分の分も闘ってくれという願いを込
めていた。

 入れ替え戦は、アミノバイタル・フィールドで始
まった。相手は昨年まで同じ2部リーグにいた上智
大だった。昨年対戦してチームは僅差で敗れていた。

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「ぶっ潰してやる。」

 佐伯はサイドラインからでも、その気持ちを全面
に押し出して、フィールドやサイドラインにいる仲
間たちを懸命に鼓舞していた。彼は自分の役目に徹
して、上智と闘っていた。しかし、チームは1部で
闘ってきた上智の実力に圧倒されていた。4Qの半
ばを過ぎて、すでに逆転するには不可能な状況とい
ってよかった。それでも佐伯は、チームの士気を下
げてはならないと思っていた。しかし、時間ととも
に、その気持ちは失われていった。

「これで終わっちまうのかよ。」

佐伯はサイドラインで立ち尽くしていた。

 結局、あれほど望んでいた夢は、手にすることが
出来なかった。主将の伊藤淳太や櫻井裕太、ほかの
みんなも泣いていた。涙する仲間の姿が目に入り、
佐伯にも、当然こみ上げてくるものがあった。だが、
彼は意地でも涙を流すつもりはなかった。
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「泣いてたまるか。」

 頭を上げ、堂々と胸をはってサイドラインを歩いた。
彼の毅然としたその振る舞いは、闘い終えた戦士とし
て実に立派な姿だった。だが、佐伯の父が、新倉監督
に涙を流しながらお礼の言葉を伝えているのを見た時、
必死に堪えていたものが溢れ出した。

「お世話になりました。本当にありがとうございまし
た。」

 父は毎試合欠かさず、試合を見に来てくれていた。
常に大声でチームを応援してくれていて、誰が佐伯の
父なのかみんなが分かっているくらいだった。母とと
もにアメフトをやっている自分に、ありったけの情熱
を注いでくれた。佐伯は監督やコーチ、仲間たちにも
当然、感謝の気持ちを持っていたが、この4年間で一
番に感謝したいと思ったのは両親だった。
 佐伯は精一杯闘ったチームメイトを感慨深く見つめ
ていた。

「もう、お前らと一緒になることはないのか。」

 そして高校の時と同じように、ある想いが湧いてきた。

「このままじゃ、終われないな。」

 佐伯勇造は、社会人として再び闘うことを誓っていた。
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by officemigi | 2013-04-21 13:58 | アメフト | Comments(0)
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