【オフィスミギ】晴れ男なものですから

小話4

湘南台で働いていた19歳の頃、期間工のおっちゃんから聞いた話。

たぶん、おそらく、よくある話。


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「僕は父が死んでも悲しむことはなく、涙することもないだろう」


幼いころから兄は弟によく言っていたものだ。

兄弟は専制君主の父からそれぐらい酷い仕打ちを受けてきたのだ。

弟は兄のその考えを聞いて少し悲しくなったが、

それも仕方のないことだと思った。


父は母と別れて地位も威厳も失ってひとりぼっちになった。

病気にもなってすっかり弱っていた。

息子二人に会いたいという父に弟は応えようとしたが、

兄はまったく相手にしなかった。

弟は兄のその態度に悲しくなったが、

それも仕方のないことだと思った。


春を過ぎたある日、父は独りで亡くなった。

急なことに弟はこれまでのことを後悔した。

そして、わずかながらでも父とのあたたかな時があったことを想い出した。

弟は父の葬儀に来ないという兄にすごく悲しくなったが、

それも仕方のないことだと思った。


後日、弟は父の部屋に飾ってあった小さい頃に撮った家族写真を持って兄に会いに行った。

兄は無表情で写真を受け取ると、深いため息をついて背を向けるだけだった。

しかし、弟は兄の部屋に家族写真が飾られるようになったのを知って

それはとてもしあわせなことだと思った。


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# by officemigi | 2017-03-20 01:27 | 小話 | Comments(0)

3/5

 今日は身体の治療の日。

もう10年は自分の身体を診てださっている方。

身体と同時にカメラマンとしての自分、人間のしての自分の変化もよく知っている。

見守っていて下さる。本当にありがたい限りです。


とにかく二月までは慌ただしかったけれどそれはそれでね、

永らく抱えていたことから、ここ数年かなぁ、目に見えないものから、ようやく解放された。

あくまで、自分自身のことなんだけどね。


だから、仕事だけじゃなくて、本当に素晴らしい、素敵だなと想えることに、

素直に感情を動かせることが出来た。


これは凄く大きなことで、

それを感じられた自分がいるとういうことが本当に嬉しい。

もうそれだけで十分贅沢なことだと思っている。


世間の決まったカタチを求めることよりも、

自分なりに感じて、そして出来ることがあればそれで十分なんだ。


自分の気持ちに誠実でいることが、生きて行く上で何より大切で、

そういう中で自然とやるべきことが出来るのなら何よりです。




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# by officemigi | 2017-03-06 02:09 | 林建次の日々 | Comments(0)

小話3


 二月のある正午前の時間である。

撮影で劇場へ向かう途中、小腹が空いたので山手線のある駅のホームの立ち食いそば屋へ寄った。


 お店の中は、年齢層の違う会社員らしき男性三、四人程度で、皆、思い思いの場所で壁に向かってズルズル音をたてながら粛々とそばを食べていた。この時間帯の定員は一人だけで、大目に見ても初老とは言いがたいかなりお年を召した風貌だった。けれど、長年染み付いてきた働きぶりが滲み出ていている。その老人に少し惹かれたりしながら、かき揚げ蕎麦を頼んで皆と同じように壁に向かってズルズルとそばを喰らった。

 食べ終えたお客は、これから向かう仕事のことなどを考えているのであろうか、やけに渋い表情を浮かべつつ水を一杯飲み干して無言のまま店を出て行く。それもそれで情緒ある風景だ。


「行ってらっしゃいませ!」


 その会社員の背中を押すように元気な声が聞こえて来た。また一人、また一人出て行く度に、老人の定員は声をかけている。気持ち良い空気が流れる。


 二人きりになったので、聞いてみた。


「親父さん、気持ちいいですね。でも、これってここの決まりごとなんですか」

「いえいぇ、わたしの気持ちなんですよ」

 洗い物を片付けながらシワだらけの笑顔で答えてくれえる。

「へぇ、やっぱりそうなんですねぇ」

「気がついたら自然とそうなっていましたねぇ。みんな頑張ってくださいねっていう気持ちですよ」

「素敵ですねぇ。親父さんはずっとここの店だったんですか」

「自分でやっていましたがこそは閉めて、今はここで雇われているんです。まぁ、気楽に楽しくやってますよ」


 親父さんとあれこれたわいない会話を楽しんでいたが、お客さんがゆるりとやってくるのでカメラバッグを担いで店を出ることにした。


「いってらしゃいませ!」


 なるほど、背中があたたかい。

 


 



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# by officemigi | 2017-03-03 13:24 | 小話 | Comments(0)