【オフィスミギ】晴れ男なものですから

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昇華

リハーサル当日、小池美奈はステージのピアノと向き合っていた。ピアノが身体に馴染まないのか、馴染ませたいのか、鋭い眼差しになって何かを確かめるように弾いている。彼女は目には見えないやりとりをひたすら繰り返す。音なのか、ピアノに向きあっているのか、あるいは両方なのか、それは分からない。
 張り詰めた空気の中で、恐ろしく繊細で微妙な感覚を必死で探し当てているように見えた。勝手な憶測だか、自身とピアノの極限を引き出すために必要なのだろう。同化するような儀式と言っていい。しばらくの対話があって、納得したのか笑顔になった。
 本番のステージで彼女は演奏というよりも、祈るように敬愛するシューマンの物語を全身で演じているように見えた。これは研ぎ澄ましてきた者だけが、初めて許される領域なのかもしれない。
 全身全霊でこの境地に立つために、また、立ち続け、さらに進化していくために彼女がしなければならないことを想う。誰にも理解されない孤高の世界を生きる覚悟もいるのではないだろうか。
 でも、そのかわり、もうこの世にいない敬愛する作曲家との究極の対話がなされているように思う。
 必死に求め続けた二人だけの異次元の対話に、ただ僕らは心を揺さぶられる。
小池美奈は美しく昇華してゆく。
 彼女の演奏を目のあたりにして、芸術とは「生き様」なのだ、と思った。
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by officemigi | 2016-01-28 09:56 | 林建次の日々 | Comments(0)

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小池美奈さん。
可能性を秘めた若きピアニスト。
柔らかさ、鋭さ、繊細さ、美しさ。
孤高な表現者はこれからどう変化してゆくのだろう。
現在NYに拠点を置いている。
素晴らしいアーティストとコラボできるのは最高だと思う。
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by officemigi | 2016-01-26 03:44 | 林建次の日々 | Comments(0)

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和氣慎吾。
よいよ世界を獲る年になるだろう。静かに、熱く。
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by officemigi | 2016-01-26 03:25 | 林建次の日々 | Comments(0)

サンクチュアリ

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宇木が工場に入ったのは18歳の時だった。
「はじまりと終わりには、絶対気を抜くな」
工場の主人である父からうっとういしいぐらいに言われ続けた。
機械の騒音だけが響く暗い工場でただ黙々と働くことに面白みなど感じるはずもなかった。さっさと終わらせて遊びにく。それしか頭になかった。
一ヶ月が経って少し慣れてきた頃、工場の終了間際だった。
大丈夫だろうと機械を止めずに開けて手を入れた瞬間だった。
一瞬で右手の中指が切り裂かれた。骨が剥き出しになった状態で指が落ちかけ、見る見るうちに血だらけになってしまう。呆然と機械の前に立ち尽くしていたが、父に知らせに行った。心配してくれると思ったが、父から激しく怒鳴られ続けた。それでも、すぐに病院に連れていって貰えるだろうと思ったが、工場が終わるまでそこで立っていろという。流れ出る血を少しでも抑えたい一心でひたすら腕を高く持ち上げて終わるのを待った。病院で治療を終え、指はなんとかなりそいうだったが、当分仕事はできないだろうと思った。
「左手があるだろ。出てこい」
当然のように言われた。
翌日、右手にビニールを巻いて工場に行った。始業と同時になんとなく自分の指を切った機械の前に立った時、全身に鳥肌が立って震えが止まらなくなった。ただひたすら金属を削る音とオイルが激しく流れるにぶい音がいいようのない恐怖を感じさせた。ただの冷たい機械じゃない。明らかに意志を持っていると初めて感じた。
「怖い」
宇木は機械に激しく叱られたと感じた。
「ナメた仕事をするな」
彼はここから機械ひとつひとつ丁寧に向き合うようになる。長年に渡って職人としての腕を磨いていくことになる。
現在、宇木は機械を「この子たち」という。仕上がってくる部品も同様だ。
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「1ミリって凄く長いんです」
宇木はそう言っていた。
ある小さな部品を作るためにミクロンの世界の刃物をつくることもある。この時、宇木はこの刃によって出来る部品を使う人の事を想うと1ミリの1/1000ですら妥協しない、というか出来ないという。
彼は稼働している機械に一台一台手に当てて、その微妙な振動や音で「この子たち」と静かに対話をするのだという。そして「この子」たちが知らせてくれる言葉をもとに1ミクロンの調整をする。
時には、「そろそろここの刃がダメになるよ」と教えてくる。言葉ない対話はただひたすら祈っているよう。
「気がつけば、ここが自分のサンクチュアリになっていた」
指の事故から20数年。今は自分の工場を持ち、1ミクロンの世界と対話しながら仲間と「この子たち」とともに生きる。「この子たち」は車の部品など、まったく誰にも見えない場所へ行くことになる。だからこそ宇木は、けっして日の目をみることのない「この子たち」の価値を誰よりも知っている。限りない愛情を持って。
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by officemigi | 2016-01-26 03:21 | 林建次の日々 | Comments(0)

鉄工所にて

新年始まってます。
年末に移転してドタドタやってご挨拶できなかった方々もいてすいません。生きてます。
 年末の仕事納めの日に記胤の新たな仕事場に行きました。
 埼玉にある鉄工所。彼は介護の仕事から転職した。ボクサーの現役時代も含めておよそ7年。昼夜問わず老人たちの人生の最期に寄り添ってきた。徹底した働きは現場の同僚もそうだったが、なにより老人たちが彼と触れ合うにを楽しみにしていたということだった。記胤はどんなに大変なことがあっても天職だと言い切っていた。
 しかし、彼は職を変えた。何故か。昨年12月に二人目の子が生まれた。人の為に身をこなにして働いても、家族4人を養っていけないからだ。 ヤクザだった彼が、やっとの想いで出会った仕事だった。彼がいなくなると寂しい想いをする老人たちがいる。当然迷う気持ちもあった。だが、ある人の一言でふっ切れたという。
「お前はじいちゃんばあちゃんたちにずっと寄り添ってきたんだ。もう十分すぎるくらい尽くしてきたんだよ。」
少年院で得た資格が記胤を次の仕事に向かわせる。鉄工所だ。かつて敬愛していた祖父も鉄工所を持っていた。そういう縁も不思議だと思う。
 記胤は電車とバイクで2時間以上もかけて通勤する。汚れた作業着のままでだ。朝は6時には家を出る。まだ暗がりの中で沁みるようさ寒さの中、鉄工所に着く。冷たい工場の中に僅かな朝日が差し込むと、眠っていた機械や材料たちがうっすらと姿を現す。ここで男たちが眩しい火花と激しい騒音を撒き散らして、ただひたすらに造り続ける。工場はそれらすべて受け入れるために、凛として、重厚に佇んでいる。神々しく感じる。この場所もなんと美しいのだろう。
 早朝に、続々と職人たちが集まってくる。皆、タバコを吸ったり、コーヒーを飲んだりしながら昨日の忘年会のことを面白おかしく話している。そして時間になると、皆、それぞれの作業の場所へ就く。火花を散らしながら、何かに祈るように、自分にはそんな風に見えてしまうな。町工場、職人。戦後、彼らたちのような人間がこの国を大きく発展させてきたといってもいいと思う。
 末端の仕事で今日も記胤は走り続ける。
物心ついたときには両親はいなかった。中学校など行ったこともなく、凶暴な彼を恐れるあまり友達は誰もいなかった。少年院では暴れに暴れた。その噂は塀の外にまで達して出所後すぐにヤクザから勧誘を受けた。
「お前のような奴が必要なんだ」
生まれて初めて人に必要だといわれて、ただ嬉しくてヤクザになった。祖父の死をきっかけに、独りで指を切り落として辞めた。社会での生き方が分からずに、もがきながらも兄、宏成の影響でボクシングと出会う。ボクシングで自分と向き合い、応援されることで初めて人から愛されていることを経験した。同時に介護では人間の最期に寄り添い、老いてゆくことを通して、死ぬということや、家族のあり方を見てきた。全身の刺青がもとで肝炎になって闘病もした。今は愛する妻と小さな子供たちを守るために、鉄工所で働き、生きる。俺は幸せなんだと言う。
 世間でいう当たり前などなかった記胤を見ていると、ありふれたいつもの日常や仕事や家族の風景にこそ、最も価値あるものだということを教えてくれているように思う。
 誰かの唄が聞こえてきそうだ。

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by officemigi | 2016-01-12 09:30 | 林建次の日々 | Comments(0)