【オフィスミギ】晴れ男なものですから

カテゴリ:小話( 8 )


小話5

先日、風邪をこじらせてめずらすく病院へ行き、

クスリを処方され薬局で待っている間に目の前で展開された薬剤師のお姉さんとおじいさんのやりとり。


「お待たせしました。お薬は朝晩の食後に一錠ずつです。お酒はなるべく控えてくださいね」

「えぇ、あの、なるべくということは、もしかしたら少しだけならいいということですかねぇ」

「・・・いえ、呑まれないほうがいいということです」

「一杯だけでもダメでしょうか・・・」

「はい、できれば・・」

「そうですか・・もし夜呑みに誘われた場合はどうすればよいのかと思ったものですから・・・」

「・・・どうか呑まないでくださいね」

「ようするに誘われても我慢すればいいんですね・・・」

「・・・そうです。我慢してください」

「呑み屋にいってもお酒は呑まなければいいんですよね・・・」

「おっしゃる通りです」

「わかりました」


謙虚に欲深く愛くるしい話なり。


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by officemigi | 2017-03-21 20:05 | 小話 | Comments(0)

小話4

湘南台で働いていた19歳の頃、期間工のおっちゃんから聞いた話。

たぶん、おそらく、よくある話。


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「僕は父が死んでも悲しむことはなく、涙することもないだろう」


幼いころから兄は弟によく言っていたものだ。

兄弟は専制君主の父からそれぐらい酷い仕打ちを受けてきたのだ。

弟は兄のその考えを聞いて少し悲しくなったが、

それも仕方のないことだと思った。


父は母と別れて地位も威厳も失ってひとりぼっちになった。

病気にもなってすっかり弱っていた。

息子二人に会いたいという父に弟は応えようとしたが、

兄はまったく相手にしなかった。

弟は兄のその態度に悲しくなったが、

それも仕方のないことだと思った。


春を過ぎたある日、父は独りで亡くなった。

急なことに弟はこれまでのことを後悔した。

そして、わずかながらでも父とのあたたかな時があったことを想い出した。

弟は父の葬儀に来ないという兄にすごく悲しくなったが、

それも仕方のないことだと思った。


後日、弟は父の部屋に飾ってあった小さい頃に撮った家族写真を持って兄に会いに行った。

兄は無表情で写真を受け取ると、深いため息をついて背を向けるだけだった。

しかし、弟は兄の部屋に家族写真が飾られるようになったのを知って

それはとてもしあわせなことだと思った。


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by officemigi | 2017-03-20 01:27 | 小話 | Comments(0)

小話3


 二月のある正午前の時間である。

撮影で劇場へ向かう途中、小腹が空いたので山手線のある駅のホームの立ち食いそば屋へ寄った。


 お店の中は、年齢層の違う会社員らしき男性三、四人程度で、皆、思い思いの場所で壁に向かってズルズル音をたてながら粛々とそばを食べていた。この時間帯の定員は一人だけで、大目に見ても初老とは言いがたいかなりお年を召した風貌だった。けれど、長年染み付いてきた働きぶりが滲み出ていている。その老人に少し惹かれたりしながら、かき揚げ蕎麦を頼んで皆と同じように壁に向かってズルズルとそばを喰らった。

 食べ終えたお客は、これから向かう仕事のことなどを考えているのであろうか、やけに渋い表情を浮かべつつ水を一杯飲み干して無言のまま店を出て行く。それもそれで情緒ある風景だ。


「行ってらっしゃいませ!」


 その会社員の背中を押すように元気な声が聞こえて来た。また一人、また一人出て行く度に、老人の定員は声をかけている。気持ち良い空気が流れる。


 二人きりになったので、聞いてみた。


「親父さん、気持ちいいですね。でも、これってここの決まりごとなんですか」

「いえいぇ、わたしの気持ちなんですよ」

 洗い物を片付けながらシワだらけの笑顔で答えてくれえる。

「へぇ、やっぱりそうなんですねぇ」

「気がついたら自然とそうなっていましたねぇ。みんな頑張ってくださいねっていう気持ちですよ」

「素敵ですねぇ。親父さんはずっとここの店だったんですか」

「自分でやっていましたがこそは閉めて、今はここで雇われているんです。まぁ、気楽に楽しくやってますよ」


 親父さんとあれこれたわいない会話を楽しんでいたが、お客さんがゆるりとやってくるのでカメラバッグを担いで店を出ることにした。


「いってらしゃいませ!」


 なるほど、背中があたたかい。

 


 



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by officemigi | 2017-03-03 13:24 | 小話 | Comments(0)

小話2

 某フィルムメーカー勤務のSさんと会って、
ああしたい、こうしたい的なことを話してたんだけど、
よくよく聞いてたら、12月で定年退職されるとのこと。
ずっと同じ会社で働いてきて、全うされる、と。


「なんか、ホッとするんですかね、どうなんでしょう」
「いや、寂しいよ。あと10年はいたかったけどねぇ」

Sさんと会ったのは、数年前のあるイベントがきっかけだった。
穏やかで、物腰柔らかく、ちょっとしたオヤジギャクを
かますひょうきんさも持っていて、誰にでも親しめる方だった。


お店出て、二人で下北の南口まで歩いて行く中で、
辞めてからのこととか、これからのささやかなことを話してた。
寒いなと思いつつ、うんうんと聞きなが人混みの中歩いていると、
Sさんが立ち止まって、何かを指差してる。

それは手袋なんだけど、俺も含めて、みんな素通りで気づきもしない。
気づいても、あぁ、落ちてる、ぐらいにしか思わんと。

Sさんは、それを大事そうに拾い、
持ち主の気持ちをあれこれ考えては、ぶつくさ言っている。

「これ、まだ落としたばっかりだよなぁ」

そういって辺りを見回すと、腰の高さほどのわかりやすそうな場所にかけてあげた。
ここに、ありますよ、みたいな感じで。

けど、まぁ、わかんないだろいうなぁ、と俺は思いつつ
話を再開して駅に向かって歩いていると、Sさんがある青年に話しかけた。

「手袋ですよね、それは、ちょっと歩いて行くと、あそこにかけてありますよ」

とか言ってる。
どうやらSさんは、歩いて行く道すがら、その青年が手袋を探しているらしいと
察知したようだった。

無事に持ち主の手に戻ったことを確認して、
よかったね、といって駅へ向かった。

この人通りの多い中で、道端に落ちている手袋を見つけ、
それを拾い、さらには、落としたであろう人に声をかけ、
教えてあげる。ごく、自然に。

Sさんは派手なことはないけれど、40年近く勤務した会社での存在は、
おそらくこのようなものではないのだろうかと思った。

別れ際に明日から大阪へ行く自分に、いたずらっぽく笑ってこう言った。

「お土産は、いらないからね」
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by officemigi | 2016-11-29 01:14 | 小話 | Comments(0)

小話1

 三軒茶屋で打ち合わせと称した呑みも終わり、歩いて帰るのが面倒なのでタクシーを捕まえた。
運ちゃんとの会話は、クセになっていてこの日も当たり前の様に話しかける。
やさしそうな白髪のおじいちゃん運転手。

「もう、運転手やって何年になるんですか」

「はい、3年ぐらいですかねぇ」

「えぇ、もっと永くやってらしゃるのかと。違うんですか」

「以前は現場監督やってたんですよ、ずうっと」

「へぇ。どちらで?」

「群馬です」

「はぁ、そうだったんですね。」

「現場ではもうお払い箱になっちゃってね、それで東京に来ました。あの仕事は好きだったんですけどねぇ。今は母の介護をしながら一日置きにこの仕事してるんです」

「あぁ、そうなんですね。お母様はおいくつになられるんんですかね」

「九十五です。」

「ぁあ、それは大変ですねぇ」

「最初の二年ほどは本当に大変でしたよ。慣れるまではつらかったなぁ。けど、今は母の介護がわたしの生きがいなんですよ」

「そうなんですかぁ」

「もう痴呆症なんですけどねぇ。一ヶ月に一、二回かな。母がにっこり笑うんですよ。本当に嬉しそうに。」

「ほう」

「それを見るとね、わたしが子供の頃によく見た大好きな母の面影が甦るんですよ。するとねぇ、わたしもあの時分の気持ちになってねぇ、幸せな気持ちになるんです。」

「幸せ、な気持ちですか。なんだか素敵ですね」

「そうですねぇ。今が人生で一番幸せですね」

当たり前の日常を当たり前に生きる。
欲も派手さもないけど、シンプルにずっと継続してきた揺るぎない強さと美しさ。
顔や手のシワ、真っ白な髪を見れば、たくさんの喜怒哀楽を経験してきていらしゃるのだろうと思われる。
だから素敵だと思う。
最近はこういうことに想いが行くよいうになった。
なるほど。
幸せは手に入れるものでもなく、感じるものなんですなぁ、と。
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by officemigi | 2015-12-10 01:30 | 小話 | Comments(0)

再び職人

丁度1年前に、エアサイクルハウジング「職人の貌」の撮影が始まりました。
照りつく太陽の下、黙々と、誠実に自身の仕事を全うしようとするその姿勢に心震えたものです。
鳶、大工、左官、それぞれの職人たち。

今回は電気、板金の職人さんたちの現場を見ささせて頂きました。
彼らの仕事は完成した時にはすべてが隠れてしまうために、決して表に出ることはないです。

電気は通って当たり前、雨漏りしなくて当たり前。
彼らは当たり前の結果を残すために、あらゆることを考えて誠意を尽くす。
配線も、屋根も、その細部にとてつもない愛情をかける。
当たり前の結果を残すために、危険と隣り合わせの現場がある。

誰も何も教えてくれない現場を幾つも乗り越えて来た。
けど、自分が凄いだなんて一言も言わない。

スイッチを押すだけで、当たり前に電気はつく。
玄関、トイレ、居間、様々な場所で。
その電気の配線は、いや家の神経といえばいいだろう。
誰かが、考えに考えて張り巡らしている。
窮屈な狭いところで、汗まにれにりながら。

もしかしたら、こんなこともあるかもしれないからと考え、
暗闇になるとことろに設計とは関係なく最善の保険をかける。
誰かのためを想う。
決して表には見えない愛情。

いつか誰かの夢の家が完成する。
皆、目に見えるもの、たとえば、そのビジュアルや機能、その美しさに歓喜し感謝する。

そして、夜になって「当たり前」に電気は灯る。
そこにとてつもない愛情が込められていること知る人はいないかもしれない。
だが、家に神経を張り巡らした男は、心の奥底で独り、こう思うのだ。

すべてよし、と。

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by officemigi | 2014-08-09 21:34 | 小話 | Comments(0)

ちょっと


前のこと。

執筆中に電話がしつこく鳴るので出たらお巡り様からだった。
5月に富山で不当な、じゃなくってオービス一発免停を頂き、
8月に講習を受けたが、さらに裁判して金を巻上げる、
ではく罰金を納めて頂きたいとのこと。

「異議あるなら、富山で裁判です。」
考えなくてもわかるだろ?いくわけねーだろが。
じゃなくて、異議ありません。

「じゃ、今月中にお願いします。」
こっちは原稿だの撮影だの、それどころじゃねーんだよ。
じゃなくて、あの、土日はやってないんでしょうか。

「土日はお休みです。」
ちったぁ、働け。
ああ、そーじゃなくって、9月中はどうしても無理なんです。

「あなただけ、特別にというわけにはいかないです。」
あー、、、、なんだぁ。 
ぁあ、いや、そこをなんとかお願いします。

「仕方ないですね、特別ですよ。じゃ、10月のこの週で。指定日を二回無視した場合、逮捕しますので。念のため。」
うるせぇなぁ。四の五の言いやがって。
その物言いに、ムシズが走るぜ。
あーめんどくせぇ、逮捕してくれや。 
なんてことは爪の垢ほどにも思っていません、必ず伺います。

法律には素直に従いましょう。

クラッシュなど多くのアーティストがカバーした名曲 
I fought the law


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by officemigi | 2013-09-23 23:52 | 小話 | Comments(2)

一ノ瀬泰三のドキュメント見る

戦場カメラマンとして、情熱の全てを賭けて生きた人。
若くして戦地で亡くなってしまうのだから、親不孝者ともいえるだろう。

この映画は彼自身が映っている戦地での写真がたくさんでてくるのだが、
そのどれもが実にいい顔をしている。
鋭く、未知のものに対して迷いなく挑んでいくような孤高の眼。
そればかりでなく、彼の喜怒哀楽すべて。

戦場カメラマンは、あらゆる情報を得て、考えに考えて行動し、
最低限生き残るための条件などを考慮するものだと思う。
生きてこそ、意味や価値があるからだ。

この映画で彼と関わった方々のインタビューを聞く限り、
一ノ瀬泰三はあまりにも純粋で、自分の求めた感覚だけを
頼りに行動した。
勇気がありすぎた。

ベトナム戦争のまっただ中を、徘徊し、引きずり回り、
悲惨な現実を見せつけられながら、彼は無邪気な子供
たちを撮り続けた。

そんな彼は戦時下の中で決して入ることの許されない、
アンコールワットに恋い焦がれる。
確かに、アンコールワットに入って写真を撮れたなら、
カメラマンとしての勲章を手に出来たであろう。

だが想像するに、最初の動機はそうであてっても、
最後に目指した時点ではもはや名誉のためではないように思う。
彼は明らかに、一か八かの賭けに挑んだ。

「戦場カメラマンとして、決して褒められたものではない。」

誰かがそう言っていた。
その通りだと思う。
彼はアンコールワットには辿り着けなかった。

けれど、あの時代に「聖地」に最も近つくことの出来た人間の
一人だったのは間違いない。
あれだけ拒絶されながら、彼はアンコールワットに何を求めたのだろう。

無謀であれ、カメラだけを持って、一人の人間として純粋に求め続けた
行為に理屈抜きの美しさを感じる。
思うように生きたということのみにおいて、
彼は幸せだったと言わなければならない。
切なさは残る。

 一ノ瀬泰造の写真はこれから先も、
「生きる」ことの何か問い続けると思った。

officemigi HP
http://officemigi.com/
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by officemigi | 2013-05-17 16:08 | 小話 | Comments(0)